インタビュー:五百田 達成氏(作家、心理カウンセラー)
「今の若者は……」や「おじさんだから」という言葉は昔からあり、ジェネレーションギャップはいつの時代も存在します。価値観の多様化で同じ年代でも異なる価値観を持つことが増え、職場のコミュニケーションも難しくなっています。今回は心理カウンセラーの五百田達成先生に、ベテラン社員と若手社員が円滑にコミュニケーションをとるポイントを伺いました。
昨今コンプライアンスが厳しくなり、後輩・部下が相手だと、何を言っても「ハラスメント」になりかねない。そういったハラスメントリスクについて悩む中堅社員は少なくありません。ちょっとしたボタンのかけ違いでトラブルに発展したなんていう話を聞くと、まったく他人事とは思えない。どうしてこんなことになってしまったのでしょう?
中堅と若手、年長者と若者の間でハラスメントが起きてしまう原因はずばり「距離感のバグ(誤り・間違い)」にあります。人と人には本来、適切な距離感というものがあり、それに応じた適切な話し方があります。年長者もふだんはそれを保って、周囲との正常な関係を築いています。それなのに、話す相手が若者となったとたん、なぜかつい、誤った距離感で誤った話し方をしてしまう、これが「距離感のバグ」です。
踏み込みすぎず遠ざけすぎず、若者と「正しい距離感」を保って「正しい話し方」をすればお互いに信頼・尊敬し合えて、仕事のしやすい良好な関係が築けます。
若者と話すときに「若手なんだから」「後輩なんだから」とやたらと「上下関係」を強調する人がいます。「上」司・部「下」は、当たり前ですが身分の「上」「下」ではありません。単なる仕事上の指示系統・役割にすぎません。ですから、業務以外の場面で「上司顔」をしたり「自分のほうが人間的に優れている」と勘違いしたりしてはいけないのです。
対等な個人同士のフェアで気持ちのいい信頼関係は、それ専用の話し方でないと築けません。ぐいぐいと距離を縮めて偉そうに上から行くのはダメ。かといって、腫れ物に触るように媚びるように下手に出るのも違う。普通に「同じ目線」で話せばいいのです。
「ビジネス上の配役」=肩書きや、「便宜上のルール」=年功序列を、個人個人の関係にまで持ち込んで話さない。あくまで対等(フェア)に、変な上下意識を持たず、変な感情を乗せずに話す。これが、正しい話し方です。
世代でまとめて話をする人がいます。理解不能なものを何とか既存の枠にはめて「若い人はそうなんだ」と決めつけてしまいたいですが、それは不正解。そういった決めつけ・くくりは、目の前の相手の人格・個性をきちんと認めない失礼な行為。世代に対して反応すればするほど、世代間ギャップ・溝を強調することになります。
知らない言葉が出てくると知ったかぶりをしてごまかす人がいます。年齢を重ねると、つい見栄や意地ばかりが成長して、知らないことを知らないと言えなくなります。が、魅力的な年長者とは「ものをよく知っている博識な人」ではなく「ものをよく知ろうとする柔軟な人」です。知識に限らず、価値観やモノの考えも同様。馴染みのない考えを「そんなの認めない!」と拒絶するのではなく、知らないことは一刻も早く教えてもらいましょう。
年長者と若者の距離感のバグは昔からあったものです。それがこの10年ほどで変化しました。多少間違った距離感・話し方でもOKだったのに、ある日突然「若者に下手なことをすると大変なことになる」という空気ができあがりました。
若手世代に限らず、世の中には自分と価値観が異なる、理解できないような人がたくさんいます。そういう人の方が多いでしょう。ですが、そこで「なんだ?」と警戒するでもなく、「こっちに合わせろ!」と支配するでもなく、互いをリスペクトした関係を作ることができたら、どれだけ素敵でしょう。どんなに自分と価値観が異なる相手とでも、互いに認め合い、尊重し合い、ちょうどいい話し方で適切な距離感を保つことができる。それこそがコミュニケーションの持つ力であり、ダイバーシティ社会の理想です。そのスキルは、今後あなたが、さまざまな年齢・性別・国籍・背景の人と出会い、良好な関係を作っていく上で、きっと必ず役に立つはずです。
良かれと思って若者にアドバイスしても、押しつけがましい言い方だと逆効果。選択肢や視点を示すにとどめ、判断は相手に任せるのが正しい距離感。
自分の頭越しに話が進むのが我慢ならないベテランが言いそうな、典型的な「老害」ワード。把握していなかったのはこっちの責任でもあるので、まずはキャッチアップしようとするのがスマート。
「昔話」は百害あって一利なし。若者にとっては純粋につまらない上に「それに比べて~」と説教に発展されてはたまらない。自分の話をしたくなるのをぐっとこらえて相手に話を振るのが年長者の余裕。