インタビュー:戸田 久実氏(アドット・コミュニケーション株式会社 代表取締役、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事)
価値観が多様化する現代社会において、自己や他者の怒りを理解し、適切にコントロールすることが重要です。本特集では、日本アンガーマネジメント協会代表理事の戸田久実先生をお迎えし、怒りのメカニズムや対処法、さらにアサーティブコミュニケーションを活用した効果的な自己表現方法について伺い、対立を避けつつ相互理解を深める力を学びます。
アンガーマネジメントとは?
アンガーマネジメントは、怒りと上手に付き合うための心理トレーニングです。怒りを理解しコントロールできれば、怒りの感情に振り回されることはありません。現代では、価値観の違いや世代間のギャップ、リモートワークによる意思疎通の問題、怒りの背景は多様化しています。これらに対応するため、怒りを適切に扱うスキルが必要です。
怒りと上手く付き合うには怒りを理解することが重要です。
2つ目は、防衛感情であること。心や身体の安心安全が脅かされそうになった時、大切にしている権利、何かを守るろうとする時、怒りで対応するという本能があります。
3つ目は、「べき」を破られたときに生じる感情であること。自身の理想、願望、譲れない価値観を象徴する「べき」が破られ怒りが生じます。
自分と相手の「べき」には違いがあります。「べき」は育った環境や経験に基づいて形成されるため、人によって異なります。また、同じ「べき」を持っていても、その重要度や期待する程度が異なる場合もあります。
たとえば、「会議の集合時間は守るべき」 という考えが共通していても、「10 分前に集合すべき」と思う人もいれば、「時間ギリギリでも良い」と考える人もいます。それぞれの違いを認識し、すり合わせることが重要です。
違いを認識せず、自分の「べき」が「あたりまえ」「常識」だと思い込むと、相手に押しつけ、決めつけのように伝わります。これでは相手との信頼関係を損ねる原因になりかねません。
アンガーマネジメントでは、怒りを表現する際、「~してほしい」とリクエストとして伝えることを推奨しています。 「べき」は自身の願望、期待を象徴する言葉ゆえ、「べき」が破られ怒りを感じた場合は、リクエストとして伝え、対話をしましょうということです。
怒りにまかせた衝動的な行動をしないためには、「6秒ルール」が効果的です。
「6秒ルール」は、怒りを感じたときに理性が働くまでの6秒間をやり過ごすトレーニングです。6秒間をやり過ごすために深呼吸をするのも有効ですが、怒りに点数をつける方法も有効です。怒りを感じた時、図を参考にし、怒りに0から10までの点数をつけます。点数をつけることに意識を向け、6秒間やり過ごします。また、怒りを数値化することで怒りを客観的に捉えることもできるようになります。
怒りを感じたときは、俯瞰して物事をえ、別の視点を持つこともおすすめです。たとえば、仕事で急な依頼に対してイラっとしたとき、「なぜ相手は急いでいるのか?」と、相手の急な依頼の背景にも耳を傾けようとしたり、自身がなぜ急な依頼だと困るのかを伝えるなど、より建設的なコミュニケーションができるようになります。
職場では、パワハラ問題に発展してはいけないという思いから部下を適切に叱れないという悩みも増えています。叱る目的は、「相手の成長を願い、意識と行動を改善してもらうこと」です。
叱ること自体、悪いことではありません。どう叱るかが重要です。感情的に怒りをぶつけるのではなく、未来に向けた具体的な改善案を示すことが大切です。
叱らず我慢していると、不満やストレスがたまり感情が爆発することもあります。また、溜め込んだ怒りをある日、「前から言おうと思っていたんだけど」と伝えると、相手は「なぜ早く言わなかったのか」と不信感を与えることもあります。
叱る際は、相手が「べき」を守らず、怒りを感じることがあるので、適切な指導にはアンガーマネジメントが有効です。「なぜ、できないの?」と責めるわけではなく、「今後はこうしてほしい」と望ましい行動につながるよう、具体的な表現でリクエストを伝えましょう。また、過去のミスを責めるのではなく、「どうすれば繰り返さないか考えよう」と未来志向で話しましょう。何のための指導なのか、目的を意識して話すことで職場全体の成長につながります。
人間関係やコミュニケーションの悩みは、時代が変わってもなくならないものです。
怒りは避けるべき感情ではありません。怒りを理解し、上手に扱えるようになりましょう。また、怒りの元になる「べき」を擦り合わせることで人間関係を深めることにもつながるでしょう。アンガーマネジメントを実践し、多様性を尊重しながら対話を重ねることで、共に成長できる社会を築いていきましょう。