シミックグループの企業カルチャー「W&3C」の4つのワードからテーマをひとつ選んでいただき、お話しいただくコーナーです。今回は、「Challenge」をテーマに、元禄時代から続く西陣織の老舗、株式会社細尾代表取締役社長の細尾真孝さんに、お話を伺いました。

 西陣織の老舗に生まれ、今は12代目として細尾の暖簾を受け継いでいますが、実はもともと家業を継ぐつもりはありませんでした。若い頃は西陣織を含めた伝統工芸文化にコンサバティブなイメージがあり、自分はもっと革新的でクリエイティブなことがしたいという想いがあったためです。

高校時代から音楽に打ち込み、二十歳の頃には東京のレコード会社に所属してクラブやイベントに呼ばれて演奏する日々を送っていました。そのうちに、ファッションと音楽、そしてアートを融合させたブランドを立ち上げようと考えました。そこで上海にオフィスと店舗を構え、ブランドをスタートさせました。若気の至りでしょうか。面白いものを作れば必ず結果がついてくるはずとの想いがあり、採算度外視でクリエイティビティを追求しすぎた結果、当然のことながら、ビジネスとしては立ち行かなくなり2年で閉業せざるをえませんでした。

その苦い経験からビジネスの基礎を学ぶ必要性を痛感し、大手のジュエリーメーカーに就職することにしました。その会社は企画から製造、小売まで一貫して行う企業で、全てが勉強の日々でした。知識やノウハウを貪欲に吸収していくことができたのも失敗を経験したからこそかもしれません。

3年ほど経った頃、先代である私の父が西陣織の海外展開を試験的に始め、前例がないことをやるのが面白いと感じました。一方、外の世界から客観的に西陣織を見ると、ものづくりとしては素晴らしいのにブランディングが弱く、もったいないと感じることも多かったのです。この時、「自分でやってみたい」という気持ちが芽生えてきました。西陣織の海外展開に可能性を感じ、自らプロデュースしたいと家業に戻る決断をしました。

海外でインテリアの見本市に出展していくうち、いくつかの課題が見えてきました。西陣織はもともと帯地であるため、織幅が約32センチに規定されています。この狭い生地幅ではソファに貼っても継ぎ目だらけで美しく仕上がりません。そこでこの幅を活かせるクッションに主軸を移すことで、少しずつオーダーが入るようにはなったものの、まだまだ採算がとれるほどではありませんでした。

そんな時、高級ブランドの建築やインテリアも手掛ける有名建築家から、店舗の内装に西陣織の技術を使いたいというリクエストが入ったのです。店舗の内装に対応するには織物の世界標準幅150センチが必要です。当時、この幅を織れる機械はありませんでした。海外で勝負していくためにはこの壁を越えなければいけないと決意し、世界標準の西陣織織機の開発に挑戦し、数年かけて実現することができました。

1200年続く西陣の歴史の中で初めての発明です。これを契機に海外展開が一気に加速していきました。京都の細尾から世界のHOSOOを目指し、世界中のさまざまな高級ブランドの内装にHOSOOの西陣織が使われるようになったのです。私が常に意識しているのは、取り組みやアイデアを仕組み化することです。

高い技術力によって生み出される日本の伝統工芸品はとても素晴らしいのに、誰もが知るような世界的ブランドの地位を確立できていない点は真摯に受け止めるべきであり、今後も挑戦すべき課題です。

たとえば、30年前には日本人サッカー選手がワールドカップや海外で活躍するなんて不可能だと思う人が多かったかもしれませんが、今の若者は本気で世界を目指しています。これは「日本人はサッカーで世界一流になれない」という固定観念を壊してくれた前例があるからです。僕たちも、日本の伝統工芸は世界的な一流ブランドにはなれないという今までの固定観念を破壊してパイオニアになることで、伝統工芸の、さらに言えば日本のものづくりに対する意識を変革したいと考えています。

テレジータ・フェルナンデス テレジータ・フェルナンデス

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