今、インフルエンザワクチンの接種が、たけなわです。インフルエンザワクチンは皮下注射で行われています。実は「皮下注射でのワクチン接種」は日本だけで行われている特殊な方法です。コロナワクチンは筋肉注射で行う事が求められました。日本の医師、看護師は筋肉注射に慣れていないので、コロナワクチン接種が始まる前に「安全な筋肉注射方法」と題した講演、講義が日本全国で行われました。(図1)
ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンや髄膜炎菌ワクチンなどを除いて、現在も不活化ワクチンは皮下注射が主流です。少し、まとめてみましょう。
インフルエンザ、ジフテリア、ポリオ、百日咳、日本脳炎、水痘・帯状疱疹、麻疹、風しん、ムンプス
新型コロナ、HPV、髄膜炎菌など
A型肝炎、B型肝炎、破傷風トキソイド、成人肺炎球菌(23価肺炎球菌)
このように日本では、多くのワクチン接種が皮下注射で行われていますが、諸外国では、生ワクチンである「麻疹」「風しん」「水痘・帯状疱疹ワクチン」などの一部を除いて、筋肉注射でのワクチン接種が基本です。
この違いは、なぜ生じたのでしょうか?
どちらが医学的に正しいのでしょうか?筋肉注射と皮下注射どちらが痛いか、どちらが副反応が強いかを検討した論文があります1)。インフルエンザワクチン接種について皮下注射と筋肉注射で痛み、腫れなどを検討しています。それによると、副反応は、筋肉注射で8.2%、皮下注射で11.3%、注射による痛みを感じる割合も皮下注射の方が多かったのです。つまり筋肉注射の方が副反応も少なく、痛みも少ないのです。
ワクチンの効果はどうなのでしょうか?
多くの研究があります(文献2など)。同じワクチンを打っても、筋肉注射の方が効果は高いのです。なぜ、痛みや副反応が少なく、効果も高い接種法である「筋肉注射」が、日本では、あまり行われないのでしょう。それは山梨県で多発した病気の原因が「筋肉注射」だったので、「筋肉注射は良くない」という誤解が生じ、今に至っているからです。
その病気の名前は「大腿四頭筋拘縮症」です。大腿部にある四頭筋という筋肉が拘縮して、歩行や正座が困難になる病気です。この病気が、1970年頃に問題になりました。山梨県の南部の限られた地域で多発したからです(図2)。山梨県だけで無く全国でこの病気が見つかりました。患者数の多い順に山梨県262名、大阪府247名、福岡県180名、人口当たりに換算すれば山梨県が圧倒的に多かったのです。
日本小児科学会はこの病気の全国調査を行い、1983年に「筋拘縮症に関する報告書4)」を発表、その中で「大腿四頭筋拘縮症の発病原因は、筋肉注射をしてはいけない解熱剤や抗生物質を大腿部に筋肉注射したことによる」と結論づけました。この報告書が出てから「筋注は怖いモノ」とされ、日本だけワクチン接種のほとんどが皮下注射で行われる事になってしまいました。大腿四頭筋拘縮症を生じせしめたのは「解熱剤」「抗生物質」であり、ワクチンは大腿四頭筋拘縮症とは関係ありません。しかし「羹に懲りて膾を吹くかの如く」になり筋肉注射は敬遠されるようになって、今に至ります。
日本小児科学会は再三再四「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について」と題する報告を行い、「ワクチン接種は皮下注射から筋肉注射」にするように訴えています5)。感染症専門医の方も多数、皮下注射から筋肉注射への変更を求めてきましたが、皮下注射より痛みが少なくワクチンの効果も高い筋肉注射が広がる気配はありません。
はて? これで良いのでしょうか?