ザトウクジラは、体長の3分の1ほどもある、長い胸ビレを持っています。

研究者たちは、この胸ビレの前縁部に小さなコブ(結節)があり凸凹( でこぼこ)していることを疑問に思いました。翼やヒレなどの構造物には後縁部に凸凹を付けることが一般的であり、流体力学的な視点からは、それは理にかなっているといえるのですが、ザトウクジラの胸ビレは前縁部が凸凹しています。それだと、受ける抵抗が大きくなってしまうはずなので、泳ぐことには向かない形のように見えたのです。( 例えばジェット機では、翼の前縁部が滑らかな方が空気の抵抗が小さくなるため、高速で進めます。)

調べてみると、胸ビレのコブが作る谷間に水が流れ込むことにより、抵抗を抑えつつ胸ビレに揚力を生じさせることができ、方向転換するときのエネルギー消費も抑えられる、ということがわかります。ザトウクジラの胸ビレは、省エネ性能に優れたエコな設計でできているのです。

研究者たちは、この胸ビレの形状を応用したタービンやファンなどの羽根を開発しようとしています。風力発電のタービンは効率良く風力を電力に変換することができるようになるし、工業用ファンなどの羽根はより静かで高効率になるからです。「スムーズな空気の流れには滑らかなエッジが必要だ」との常識(視点)は、ザトウクジラの胸ビレによって一変したのです。

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