みえない障がいを可視化する

近年、障がい者雇用数は増加しており、厚生労働省が発表した2023(令和5)年の障がい者雇用状況の集計結果では特に精神障がい者雇用数の増加が顕著でした。精神障がい者雇用が進む一方で、企業側と十分な相互理解が築けず、定着率が低いという課題も浮かび上がってきています。
シミックグループでは、属人的なサポートを脱却し、精神障がいを有する社員の安定定着や本人のIKIGAIを含めた自己実現につなげるために、グループ横断プロジェクトとして採用・定着支援チーム(Team BANSO)を発足しました。

今回は、障がい者の業務マネジメントにおけるポイントについて、株式会社スタートラインCBSヒューマンサポート研究所 研究所長 小倉玄さんにお話を伺いました。


【Team BANSO】~チーム名に込めた想い~
「さまざまな能力や個性を持つ人々と、組織・社会との架け橋であると共に、支援を必要とするすべての人が主体的に安心して自走できるようになるまでの伴走者であり続けたいという想いを込めています。

写真左から、株式会社スタートライン 小倉玄さん、シミックウエル株式会社 石川ゆきえさん、シミックホールディングス株式会社 金丸恭子さん

金丸
日本における障がい者雇用の現状について教えてください。

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小倉
2023年の民間企業に雇用されている障がい者の数は 642,178人で20年連続で過去最高となりました。障がい者の雇用が増えているだけでなく、雇用される障がいの種類も大きく変わっています。例えば、2011年からの増加率をみると、身体の障がいが 1.3倍、知的な障がいが2.2倍、精神的な障がいが10倍になっています。身体の障がいから精神的な障がいへと大きなシフトが起きていることがわかります。

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石川
精神障がいを有する方の雇用が増えつつある中で、企業が直面している課題にはどのような点が考えられますか?

小倉
定着率の低さです。精神障がいを有する方の1年定着率は、身体障がい、知的障がいを有する方よりも低いことが知られています。


石川
精神障がいを有する方の定着率を向上することはできるのでしょうか?

小倉
採用のマッチング支援や就労後の定着支援を受けた方では定着率が高まることもわかっており、受け入れ側の体制により定着率は改善可能といえます。今後の障がい者雇用率の引き上げに伴い、企業側の理解と適切なサポートがますます重要になってくると思います。

金丸
これまでは一部の管理者の属人的な知識でサポートしてきましたが、部署異動や退職などで管理者が変わった場合に、これまでの配慮事項やコミュニケーションがうまく引き継がれないなど、属人的なサポートの限界を痛感しています。組織として精神障がいを有する方の定着支援に取り組む際のポイントを教えていだけますか。

小倉
精神障がいは「みえない障がい」なので、業務上どのような困りごとが発生するのか、雇用者側が具体的なイメージをつかめず、必要な支援がわからないというケースが多いかもしれません。まずは、精神障がいを有する方のサポートについて組織全体で共通認識を持つことが重要です。また、診断名はサポートをする上で重要な情報の一つですが、必要な配慮は一人ひとり異なりますし、精神障がいを有する方はそうでない方と比べてコンディションの波が大きいので、同じ診断名であっても一様にせず個別に対応することが求められます。

石川
障がいを可視化するというのはとても大事なことだと思っています。みえないものやわからないことに対して誰しも最初は恐怖心を感じると思いますが、それと同じで障がいのことを知らないとどう接していいのか戸惑うことも多いと思います。みえない障がいだからこそきちんと可視化し正しく学ぶことが重要で、個々の特性理解につながるのだと思います。ただ、個別の対応を考える上で必要な情報を得るのは難しいと感じています。一人ひとりの状況をアセスメントするための工夫はありますか。

小倉
どのような状況で困りごとを抱えやすいか、どのような思考の癖があるかといったご本人の特性を把握するために、入社時に詳細なヒアリングを行うことが大切です。働きやすい環境を整えるために、明確な目的を共有して合意を得た上で、詳細なヒアリングシートに記入していただくことをお勧めしています。

金丸
プライベートなことは個人情報の問題もありますし、管理者としては尋ねにくいと感じてしまいがちです。

小倉
もちろん全員ではありませんが、精神障がいを有する求職者の方は、合理的配慮の必要性を感じて障がい者手帳を取得したというケースが多く、目的を明確にして説明するとご協力いただける場合がほとんどです。ただ、こうしたアセスメントを企業単体ですべて行うのは難しいと思います。私たちは、障害者職業総合センター(NIVR)が公開している職業リハビリテーションに関するツールをベースに開発した情報整理プログラムを使用しています。NIVRのツールは無料で利用できますし、必要に応じて外部のリソースを活用しながら、ご本人の困りごとや疲労のサインなどを把握して、対策を一緒に考えていくことが重要です。

金丸
本人に負荷をかけすぎてはいけないと思うあまり、過度に気を使ってしまうという現場の声もよく聞かれます。こういった声に関してはどのようにお考えですか。

小倉
私たちのサポートの考え方のベースには「人の行動は環境との相互作用により大きく影響を受ける」という行動分析学の概念があります。「障がいだから仕方ない」と理解するのではなく、「環境の一因である私たちの関わり方がご本人の行動に大きく影響を与えている」という共通認識を持つことが第一歩だと思います。例えば、会議でまったく発言をしないAさんについて、「やる気がない」や「内向的な性格」という印象が生まれがちです。しかし、行動分析学の視点からは、Aさんが発言しない理由は、これまでの周囲との関わり方に問題がある可能性があります。以前に受けた批判や否定的な経験から発言を避けるようになっている可能性があります。

石川
発言したときに、「全然ダメ!」と否定的なコメントをもらうのと、「いいね、よく言った!」や「おもしろい発想だね」と褒められるのとでは、心理的にも大きく違ってくると思います。言葉ひとつで次の行動に大きく影響してきますよね。

小倉
これは精神障がいを有する方だけではなく、すべての人に共通することでもあります。ただ、精神障がいを有する方はそうでない方よりも生きづらさや困りごとを抱えやすいので、より丁寧なケアが必要です。受け入れ側が障がい者の特性を把握し、必要な配慮をすることで、雇用の安定が促進されるでしょうし、定着率の改善が強化できることでしょう。







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