近年、職場における「ハラスメント」が急増し、深刻な問題となっています。2020年6月には職場のパワーハラスメント(パワハラ)防止対策が強化され、 これまで明確な規制がなかったパワハラについて、事業主は職場での対策の強化が法的に義務付けられました。このように法整備も進む中、私たちはハラスメントを「しない」「受けない」ためにはどうしたらよいのでしょうか。今回は、ハラスメントの現状や防ぐためのアドバイス、コロナ禍で増えているリモートハラスメント(リモハラ)について、ハラスメント対策専門家の山藤祐子さんにお伺いしました。
新型コロナウイルスの大流行で、多くの企業が十分な準備もできないまま在宅勤務に突入し、「リモハラ」という言葉も誕生しました。オフィスでのハラスメントとリモハラの大きな違いは、多くが一対一の密室環境で行われる点です。オフィスだと周りの目があり制御されていたものが、エスカレートしやすい傾向があります。ハラスメントを受けた側も、オフィスなら周りの人たちからフォローが得られますが、リモートだと一人で抱え込んでしまうケースが多いのです。
リモハラは、セクハラとパワハラの2つに大きく分かれます。セクハラで一番多かったのは部屋や部屋着のいじりです。オンライン飲み会で性的な言動をしたり、二人きりで飲むことを強要されたりする事例も多くありました。パワハラでは、10 分に1回PCの前にいるかの確認、1時間ごとの進捗確認を求められるケースやトイレなどで席を外しただけで叱られたという上司による過剰な監視が多くみられました。背景には、リモートでの仕事の進め方が確立していないこと、上司と部下のコミュニケーション不足から起こると考えます。
リモハラをする人は普段からハラスメント傾向が強い場合が多いとはいえ、在宅勤務で想像以上のストレスを抱え、ハラスメントに走るというケースも珍しくありません。家庭ごとの事情を考慮せず、オンライン会議に子どもが映りこんだだけで叱責するという事例もありました。家庭によって置かれている状況や環境は異なります。まずは相手の状況を想像して、寄り添うことが大事です。
最近では、自分が嫌だと思ったらハラスメントだと思い込んでいる人も少なくありません。特に、オンライン会議での顔出し要請=リモハラと誤解している人は多いようです。業務上必要な場合に顔出しをするよう要請しても何ら問題ありません。パワハラ防止法( 労働施策総合推進法)では、ハラス メントとは、『優越的な立場から業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動をすること』と定義されています。「嫌だ」という感覚だけではなく、法律上ハラスメントがどのように定義されているのかについて、上司はもちろん、部下も理解する必要があります。
私がこれまでご相談を受けた案件の6~9 割は、ハラスメントには該当せず、コミュニケーションの不和が原因で起こったちょっとしたボタンのかけ 違いや思い込みでした。例えば、セクハラは男性から女性に起こることと想像しがちですが、女性から男性へのケースも多いですし、同性同士の言葉のセクハラもあります。パワハラも必ずしも上司部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。たとえば部下から上司、同僚間であっても、相手が業務拒否をされると困る関係性であればパワハラとなることもあるのです。「ふつう〇〇だ」という発想は、必ずしも相手にとってふつうではないことがあります。お互いの先入観や当たり前をぶつけ合うのではなく、それぞれの意見を 尊重し、必要であれば丁寧な説明や話し合いを行うことが大切です。
自分の過去の言動に対して「パワハラしていたかも。」と相談されることがあります。その時はその時点で謝罪しましょう。「謝り方が分からない」、 「謝ったら負けだ」、「認めたら何を言われるか分からない」と不安に思うかもしれませんが、「あの時こんな言い方をして、すごく嫌な思いをさせて申し訳なかった」と素直に言いましょう。もしかしたら、「もういいですよ」と言ってもらえるかもしれないし、「いや、あの時こんな嫌な気持ちになったんですよ」と言われるかもしれない。多くのケースは謝罪がなかったことを根に持っているので、気づいた時点できちんと反省し、謝ることが大事です。
ハラスメントかどうかを分けるのは、必要性と相当性があるかどうかです。管理職の方が主導して、自分たちが果たすべき業務や、その遂行のため に必要なルールを説明し、部下の方からコンセンサスをとることが重要です。今の時代、「黙って俺についてこい」というのは通用しません。管理職の方は誰が聞いても問題ないと思える言動を心がけ、部下の方は周りの方や窓口に相談して客観的な意見をもらうといいでしょう。同時に部下も、きちんとハラスメントについての知識を持ち、自分の正しさを相手に押し付けないことが大切です。