あまり知られてはいませんが、タバコに関する重要な情報をお伝えします。一時期話題になっていた、東京2020オリンピック での禁煙に関することです。これは本来、話題になること自体がおかしい話なのです。なお、本稿の主旨は屋内での受動喫煙防止を訴えることにあります。日本からタバコを追放せよとか、屋外で他者のいない場所での喫煙までも禁止しようとか、そういったことを言っているのではないことをあらかじめ申し添えます。

“たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on TobaccoControl、略称FCTC)”をご存じでしょうか? 外務省によると、182ヵ国が締約しています。(2020年6月現在)

日本も2004 年3月9日、この条約に署名し、同年5月19日に国会の承認を得ています。つまり、批准しているのです( 注:批准とは、署名をした条約の内容について国家が最終確認を行い、署名した条約に拘束されることについて同意を与えることです。国会の承認を得るとは、そういった深い意味があるのです)。条約を締結した国はその内容に反しないよう、国内法を整備する義務があります。それが「世界標準」です。しかし、タバコに関する限り、日本は「異端児」であり、国内法を整備していませんでした。他国と比べると、その違いがよくわかります。

下の表は2018 年、厚生労働省のホームページに掲載されていた各国の「受動喫煙事情」です。

 IOC(International Olympic Committee:国際オリンピック委員会)は1988 年に禁煙方針を採択し、現在では、オリンピック開催都市には受動喫煙の防止対策として公共の場所、レストラン、バー、移動手段(交通機関)を含む屋内での完全 禁煙が求められています。つまり、受動喫煙が認められている都市では開催ができないのです。近年、オリンピックを開催したブラジル、韓国、中国、ロシアも全土が屋内全面禁煙となっています。日本だけが、FCTCを無視した格好になっていました。

そのため、法律が改正され、2020年4月1日からは基本的に屋内での喫煙は禁止となり、ようやく世界標準に追いつきました。逆に言えば、それまで実行していなかったのです。FCTC第8条には、「(条約の)締約国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所および適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な措置を講ずる。」とあります。FCTCを批准しているなら、諸外国と同様、法の整備が必要でしたが、日本は批准後、14 年もこの問題を放置していました。

タバコ問題は、さまざまな議論がありますが、単純な話なのです。日本が署名・承認・批准したFCTCを遵守するように法改正をすればよかっただけなのです。オリンピック開催を契機として、法がようやく整備されました。 FCTCを遵守しなかったことは「憲法違反」にあたります。日本国憲法第98 条第二項には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」とあります。

当たり前ですが、締結した条約を無視する行為はこの項に違反していることになります。 屋内全面禁煙の健康に及ぼす影響に関しては、さまざまな研究報告があります。有名なのはアメリカのモンタナ州ヘレナ町での研究です。同町では2002年、屋内全面禁煙条例が施行され、劇的に心筋梗塞での入院患者数が減りました。半減したので す。ここまでは普通の話です。

しかし、タバコ会社から訴訟が起こされ、2003年に屋内全面禁煙が解除されます。すると、一気に心筋梗塞での入院患者数が増えて元の木阿弥になってしまいました。禁煙を解除したら悪化するという報告は、私が探してもこれしか見つけられません でした。禁煙を解除するという事例自体が極めて稀だからだと思っています。 タバコが原因で生じる病気にかかりたくなかったら、禁煙しましょう。

【参考文献】
1. Sargent RP, et al. Reduced incidence of admissions for myocardial infarction associated with public smoking ban: before and after study.BMJ. 328:


※このコラムは2020年8月15日に執筆したものです。


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